「80周年記念式典 学部長挨拶」
農学部長 米倉真一
ご来賓の皆さま、同窓会の皆さま、そして本日ご臨席くださいました多くの関係各位に、心より御礼し上げます。
本日は、信州大学農学部創立八十周年記念式典にお集まりいただき、誠にありがとうございます。この佳節を迎えることができましたのは、ひとえに皆さまのお力添えの賜物であり、学部を代表して、深く感謝を申し上げます。
特に、全国各地、さらには世界で活躍されている同窓会の皆さまに、心より敬意を表します。農学部はこれまでに一万人を超える卒業生を社会に送り出してまいりましたが、その歩み一つひとつが本学部の歴史そのものであります。農林業をはじめ、産業界、学術界、教育界、そして地域社会の発展におて、卒業生が果たされた役割は極めて大きなものであり、本学部の誇りにほかなりません。本日もこうして同窓生の皆さまが駆けつけてくださり、後進を励まし、学部の八十年の歩みを共に祝ってくださることに、心より感謝申し上げます。
本学部の源流は、1945年(昭和20年)2月、なお戦時下にあった時代に設立が認可された長野県立農林専門学校に遡ります。同年4月に農科と林科の二科をもって開校し、教育が始まりました。困難な時代にあっても、地域社会は「農業と林業の振興こそ国の基盤である」という信念を持ち、新たな教育機関を立ち上げたのであります。その精神は戦後に受け継がれ、1949年、新制大学の発足とともに信州大学農学部が設置され、今日に至る道が開かれました。
以来八十年にわたり、本学部は時代の要請に応じて教育・研究を展開してまいりました。戦後の食料不足の時代には農業生産の向上に貢献し、高度経済成長期には林業資源の開発や農産物の改良に力を注ぎました。そして現代においては、気候変動や人口増加に伴う食料安全保障、生態系の保全や持続可能性の確保といった、地球規模の課題に挑んでおります。八十年の歴史は、農学の学びが常に社会の最前線にあったことを示す証であります。
また、本学部の歩みを支えてきた大きな柱の一つが、地域社会との協働であります。信州大学農学は、長野県という豊かな自然環境に根ざし、地域の人々とともに課題を見つめ、解決を模索してきました。農林業の振興や地域資源の活用に関する研究はもちろんのこと、地方自治体や企業との連携を通じて、地域の持続的発展に寄与してまいりました。こうした取り組みは、単なる研究の枠を超え、「地域とともに歩む農学」の姿勢そのものであります。
今後を展望いたしますと、農学にはかつてない重責が課せられております。持続可能な食料生産システムの確立、再生可能資源の循環利用、さらにはデジタル技術を駆使した農林業の革新――これらは、人類共通の課題であり、同時に農学の使命そのものであります。私たちは、「生命・食料・環境」を三本柱として、地域社会と世界に貢献する教育研究拠点であり続けることを目指します。
また、未来を担う人材の育成こそ、私たちに課された最大の責務であります。本学部は「学生中心主義」を理念に掲げ、学びを地域と世界に開くことを重視してきました。地域に根ざした実践教育を進めるともに、海外での学修機会も拡充しております。近年は、東南アジア諸国の大学との連携を深め、人材流や共同研究を進めることで、学生が国際的な視野を養う教育プログラムを推進しています。八十年にたり地域とともに歩んできた伝統を基盤に、世界とつながる次世代の農学教育へと進化しております。
そして、次の百周年に向けて、私たちはさらに大きな挑戦をしてまいります。教育面では、デジタル術を駆使した新しい学びの仕組みを導入し、地域課題と国際課題を同時に学ぶカリキュラムを構築します。研究面では、気候変動、資源循環、バイオテクノロジーなど、持続可能な社会に資する研究を一層推進し、世界に発信できる成果を追求いたします。その実現には、私たち学部の努力だけではなく、地域社会の皆さま、同窓会、自治体、産業界、そして国際的な連携先を含む多様なステークホルダーの皆さまとの協力が不可欠であります。
本日八十周年を迎えることができましたのは、多くの皆さまのご支援の賜物であります。ここに改めて深く感謝を申し上げるとともに、本学部はこれからも伝統を継承しつつ新しい農学を切り拓き、百周年、そしてその先の未来へ歩み続けることをお約束いたします。
結びにあたり、皆さまのますますのご健勝とご発展を祈念し、また今後とも変わらぬご指導とご支援をお願い申し上げ、創立八十周年の挨拶といたします。
本日は誠にありがとうございました。
